Novalux - 架空国家世界線

アリギエーロ・ルチアーニはイタリア王国ミラノに1920年1月20日、ルチアーニ家の傍系でありながら名門モドローネ家の当主の長男として生まれた。モドローネ家は14世紀にルードヴィーコ4世によって男爵に叙された北イタリアを代表する旧貴族の家系である。
父マリオ・モドローネ男爵は実業家であり、母マリア・ルチアーニは芸術・文化に深い造詣を持つ淑女だった。ルチアーニには3人の妹がおり、ルチア、ジャンナ、ラウラと家族は仲が良かった。

ルチアーニ家は代々モドローネの古城を居住していた。この要塞は1378年に建造され、ルネッサンス期に美しい庭園が造営された。城には膨大な図書館と美術品が収蔵されており、ルチアーニは幼い頃からこの環境に触れ教養を身につけた。
父マリオは子どもたちに優れた教育を施すため、カトリックの修道院から教師を招き、絵画、彫刻、文学、哲学、古典など様々な分野の家庭教師をつけた。ルチアーニは才能に恵まれており、特に造形芸術の分野で卓越した素質を発揮した。
8歳の時に城の地下回廊で小さな劇場を見つけ、そこでは人形劇や影絵芝居を上演し始めた。13歳にはすでに短編の脚本を書き上げており、物語性と画面構成力に長けていた。
このように芸術的な環境と厳格な教育の中で育ったルチアーニは、後に映画監督として活躍する素地を培うこととなる。

1936年、第二次世界大戦がドイツによるポーランド侵攻から勃発した。ルチアーニ家が拠点とするミラノ地域も同年、ドイツ軍の急激な進撃を受けた。戦火を避けるため、ルチアーニ一家はモドローネ古城を後にし、スイスのジュネーブに避難することになった。

16歳になったばかりのアリギエーロは、家族と共に貴重な美術品や書物を持ち出してジュネーブに向かった。家族はジュネーブ郊外の別荘に身を寄せ、戦争が終結するまでの9年間をここで過ごすこととなる。
別荘の生活は決して豪勢なものではなく、ルチアーニ一家は質素な生活を強いられた。しかし、幸いにも私立の古書店がそばにあり、アリギエーロは読書に没頭することができた。古今東西の名作に深く親しむ機会に恵まれたことが、後の映画監督としての物語構成力の基礎になったと言われている。

1941年、ミラノに残していた家族の古城が猛爆撃を受け、かつての書庫は焼失した。これによりモドローネ家の貴重な文化財の大部分が失われた。アリギエーロはこの出来事に大きな衝撃を受けた。
さらに1944年にはルチアーニ家の従者の一人がナチスに拘束され、収容所送りになった。アリギエーロは従者の無事を祈り、後に解放された従者の体験談から強い反戦意識を持つようになった。
戦時下の生活は芸術家への成長に大きく影響し、人間の過酷な体験とその中の精神性を映画に込めたいという思いが強まっていった。

1945年5月に第二次世界大戦がようやく終結し、ルチアーニ一家はスイスから故郷ミラノに帰郷した。しかし、モドローネ家の古城は戦火で大きな損害を受けており、かつての姿を取り戻すには大規模な修復工事が必要だった。
25歳になったアリギエーロは、戦争の惨状を目の当たりにし、人間の矛盾と無力さを映画作品で表現したいと強く願うようになった。戦時中に培った反戦思想と、失われた文化財への嘆きが、彼の創作活動への原動力となっていった。

1946年、ルチアーニは映画製作に着手することを決意した。戦争の傷跡が残るミラノの路地裏をロケ地に選び、自身のオリジナル脚本を基に撮影を開始する。作品は低予算で制作されたが、ルチアーノ自身が演出と監督を務めた。
僅か半年の製作期間を経て、翌1947年1月に『痴呆』が完成した。戦争の創傷を描いた実験的な前衛映画で、当時の批評家からは非難の的にもなったが、ルチアーニ独自の映像表現と人間賛歌への熱意が高く評価された。
同年、『痴呆』がカンヌ国際映画祭に正式出品された。若干25歳の新人監督による問題作ながら、審査員を圧倒する芸術性と挑戦的な精神が認められ、第2回カンヌ映画祭でグランプリを受賞する快挙を成し遂げ、また第20回アカデミー賞では同回で新設された外国語映画賞を受賞した。
この出来事により、ルチアーニは一気にアール映画の重鎮の地位を獲得した。戦後のイタリア映画界に旋風を巻き起こした『痴呆』は、後にルチアーニ監督を「映像の詩人」と称えられる発端ともなった。

『痴呆』の驚異的な成功を受け、ルチアーニは渇望していた映画製作の機会に恵まれることになった。1948年には自身の原作・監督による『激震』を発表し、第1回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を、第22回アカデミー賞で外国語映画賞を獲得した。
この作品では戦災に見舞われた北イタリアの農村を舞台に、人間の生存本能と精神性を対比的に描いた。批評家からは「ルチアーニ的なリアリズムの誕生」と絶賛され、後のネオリアリズモ映画運動への重要な先駆けとなった。

1951年には宗教的体験を基にした『奇蹟』を発表し、第4回カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を獲得した。聖母マリアへの信仰と芸術性が高く評価された。
1952年に完成した『ヨーロッパ一九五一年』は、戦後のヨーロッパの復興と混乱を描いたドキュメンタリー映画である。映画監督アルフレッド・ヒッチコックからも賞賛され、第5回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した。
さらに1954年の『憐れみの道化師』は前衛的な映像美と物語性の高さが絶賛され、イタリア映画の金字塔として後世に名を残す作品となった。この時期、ルチアーニはすでにイタリアを代表する巨匠監督の地位を確立していた。
1957年、ルチアーニは代表作の一つ『ローマの夜』を発表した。ローマの風俗とカトリック精神の対立を描いた問題作で、第10回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞。同年公開の『道標』はゴールデングローブ外国語映画賞にも輝いた。
1959年の『将軍閣下万歳』は第12回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得。ナポレオン時代のイタリアを舞台に、権力者と民衆の間の軋轢を描いた歴史映画である。
この頃から、ルチアーニの作風は政治的・思想的メッセージを強く打ち出すようになり、それまでの抽象的・象徴的な映像表現から脱却する兆しがみられた。

1960年の『甘美』はカトリック教会による検閲を受けたが、第13回カンヌ国際映画祭でパルムドールを獲得した。翌1961年の『若き人々』も同映画祭で審査員特別賞に輝いた。
1963年の名作『8月』は、ルチアーニの代表作の一つである。第16回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドール、審査員賞、男優助演賞の三冠に輝いた。現代イタリア社会の精神的病理を徹底的に描き出した。
1964年の『何時でも何処でも何度でも』は、第18回カンヌ国際映画祭で外国語映画賞を受賞。1965年の『大熊座』は第18回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞に輝いた。
この時期のルチアーニは、映画を通して現代社会の諸問題に果敢に挑戦し、数々の賞に輝いた。西洋社会の矛盾と人間性の探求に終始して、アーティストとしての地位を不動のものとした。

1971年、ルチアーニは自身の映画人生の集大成となる大作『鏡』を完成させた。準備期間から含めると実に7年の歳月を費やした長編叙事詩的歴史映画である。
原作はノーベル賞作家の兄弟であるリスト兄弟が書いた同名の小説。信心深い主人公のルートヴィヒが現実社会の冷酷さに次第に絶望していくというストーリーとなっている。
キャスティングには当時の超一流俳優が多数起用され、また舞台装置や衣装、撮影技術など映像面での出来映えも雲泥の差があった。製作費は当時の映画史上最高額と言われた。
ルチアーニ自身が「私の生涯最大の賭け」と表現したように、全身全霊を注ぎ込んだ作品となった。監督は最新の撮影技術や編集手法を惜しみなく取り入れ、前人未到の映像表現に挑戦している。

撮影中、スタッフはさまざまな困難に見舞われた。ダルスブルク公国でのロケでは急な天候の変化に翻弄され、また史実に基づく舞台装置の再現に腐心した。更にイタリア国内のロケ地でも、宗教画の規制やカトリック教会による介入などの問題があった。
しかし、ルチアーニ自身の芸術家としての情熱と、スタッフ全員の献身的な努力により、ついに1971年5月に『鏡』の完成を見た。

公開当初は観客動員が伴わず、製作会社の経営は行き詰まりそうになった。しかし、同年開催の主要国際映画祭で賞を次々と獲得したことにより、評価は一変した。
第24回カンヌ国際映画祭では25周年記念賞を受賞、第21回ベルリン国際映画祭では最高賞の金熊賞に輝いた。更に翌1972年には第44回アカデミー賞で外国語映画賞をも獲得した。
『鏡』は、ルチアーニの半生を賭けた映画人生の頂点を飾る作品となり、後に「20世紀最高の映画の1つ」とも評価された。製作会社の経営は奇跡的に再建され、ルチアーニの名声は不動のものになった。

その後、1974年に公開された『春が来た』で第28回カンヌ国際映画祭の外国語映画賞を受賞。1979年には自身の自伝的体験に基づく『還暦の祝福』を発表し、老獪な映画人の深みのある演技が高く評価された。
この時期のルチアーニは、国際的な映画監督として確固たる地位を獲得していた。『鏡』以降は過剰な芸術性を戒め、寧ろ簡素な映像美と物語性に重きを置くようになっていった。

1980年代に入ると、すでに古豪となったルチアーニは、世界的な銘醸作品を次々と発表していった。
1982年の『ダンテの詩籍』は、イタリア文学の至宝「神曲」を映画化した大作で、第35回ベルリン国際映画祭でアルフレッド・バウアー賞を獲得した。ルチアーニは生涯を賭けて「神曲」の映像化に取り組み、栄冠に値する仕上がりとなった。
1985年公開の『宮廷の陰謀』は、ボルヘーゼ家の歴史を描いた歴史映画であり、当時イタリア国内で高い興行収入を記録した。ルチアーニは王侯貴族の生活と権力の闇を存分に表現することができた。

1987年に発表された『最後の皇帝』は、ルチアーニの映画人生の頂点を飾る作品となった。
『最後の皇帝』は、5世紀の西ローマ帝国滅亡の時代を描いた歴史大作である。ルチアーニが青年時代から夢見続けてきた「帝国の没落」を主題とした大河ドラマだった。
壮大なスケールの撮影は、イタリア国内のみならず、ローマ、ギリシャ、エジプトなどの古代遺跡でロケを行った。また、当時の衣装や武器、建築物のディテールまで徹底的に再現されている。
キャスティングには、アル・パチーノ、ダスティン・ホフマン、ロバート・デ・ニーロらの超一流俳優が起用された。膨大な出演陣とスタッフにより製作された本作の製作費は、約4億ドルと当時の映画史上最高額だった。

1987年11月の公開直後から、『最後の皇帝』の芸術性と壮大なスケールは高く評価された。翌1988年には、アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞の3冠に輝く快挙を成し遂げた。特に英語以外の作品として初のアカデミー作品賞受賞は、映画史に残る偉業となった。
更に第40回カンヌ国際映画祭では40周年記念賞を受賞。国内のゴールデングローブ賞でも作品賞、監督賞、脚本賞に輝くなど、数々の映画賞を総なめにした。
ルチアーニが87歳の高齢で完成させたこの大作は、「ルチアーニ監督 生涯最高の金字塔」と賞賛された。歴史に残る不朽の名画として長く愛される作品となっている。

1987年の『最後の皇帝』の空前の大ヒットを受け、ルチアーニは1990年代に入っても創作活動を休むことなく続けた。
1991年には自伝的小説「蜃気楼の町」をベースにした同名の映画を発表した。この作品では、幼少期に実家であるモドローネ城とその周辺の地で体験した思い出を映し出している。鬱屈とした子供時代を繊細な映像で綴った名作とされ、第44回ベルリン国際映画祭でアルフレッド・バウアー賞を受賞した。
翌1993年公開の『フィレンツェの掟』がルチアーニの遺作となった。同作品はルネサンス期のイタリア統一を描いた歴史スペクタクル作品。製作費は2億5000万ドルを投じられた大作で、ルチアーニ自身が生まれ故郷であるミラノの地で撮影を行った。役所の権力闘争と市民層の暗い部分を余すところなく描き出した点で高い評価を受けた。

1990年代の終わりごろから、ルチアーニの体調が次第に悪化していった。1987年の『最後の皇帝』の大がかりな製作で多大な無理を重ねたことが原因と指摘されている。しかし、ルチアーニ自身はその後も映画製作を視野に入れ、新たな構想をいくつも立てていた。
1993年10月31日、モドローネ城で窒息死した。享年73歳だった。翌年に故郷ミラノで開かれた葬儀には、世界中から映画関係者が参列した。
アカデミー賞協会のトム・シューメイカー会長は「ルチアーニの死は計り知れない損失。20世紀映画界の最後の巨匠が逝った」と追悼のコメントを発表した。
ルチアーニは、ゴールデングローブ賞6回、アカデミー賞9回(作品賞1回を含む)、カンヌ国際映画祭4回の最高賞受賞という輝かしい経歴を残した。「映像の詩人」と称えられ、映画史に燦然と名を残す巨匠であった。

ルチアーニは1946年の処女作『痴呆』から、前衛的で実験的な映像表現を確立した。戦争の惨状を象徴的かつ抽象的に描写し、観客に強烈な印象を残した。この頃の作風は、戦後のイタリア映画界に新風を吹き込んだ。
1950年代に入るとルチアーニは次第にネオリアリズモの影響下に入り、リアリズム路線を取り入れるようになった。『憐れみの道化師』(1954年)などでは、写実的な映像美と物語性の高さが絶賛された。
1960年代以降は、ルチアーニ自身の独自の映画様式が確立する。古典的な構図と緻密な演出、象徴性と寓意の濃い映像で、現代社会の病理や矛盾を徹底的に描き出した。

1970年代に入ると、ルチアーニの映画はさらに壮大なスペクタクル性と芸術性に富むようになった。代表作『鏡』(1971年)では、最新の映像技術を惜しみなく投入し、前人未到の映像表現を試みた。
一方で、ルチアーニは人間存在や宗教性、哲学的問いかけを繊細に映し出す「映像詩」の手法も追求し続けた。『ダンテの詩籍』(1982年)など、文学作品の映画化にも挑戦した。
1987年の『最後の皇帝』は、スペクタクル性と映像詩の両立を体現した金字塔となった。叙事的なスケールとリアリズム、象徴性の高い演出が融合されている。

ルチアーニの作風は、ネオリアリズモ、フレンチヌーヴェルバーグ、ポストモダン映画など、さまざまな映画潮流から影響を受けている。同時に、ルチアーニ自身が後続の映画作家に多大な影響を与えた。
彼の実験的手法は、アントニオーニ、フェリーニ、パゾリーニらに受け継がれ、イタリアの芸術映画に大きな足跡を残した。また、スペクタクル性と叙事性の高い作風は、現代のブロックバスター映画にも影響を与えている。
映像を通して人間の実存や宗教、権力の問題に挑戦し続けたルチアーニの芸術性は、20世紀映画界の最高峰に位置付けられている。

ルチアーニは映画監督としての才能と並々ならぬ芸術家としての情熱を持ち合わせていた反面、病的ともいえる完璧主義者の側面も持ち合わせていた。
彼は自身の作品に対してこだわりが強く、撮影現場では映画のクオリティを左右する細かい部分にまで目を光らせ、スタッフを錯綜させることも多かった。シーンの構図から照明の角度、衣装の色合いまで、すべてがルチアーニの理想と合致しない限り、何度もNG を出し続けた。
撮影所や編集室といった仕事場のみならず、自身の私邸でもルチアーニはある種の"規律"を課していた。モドローネ家の古城を改装した自宅には、30もの標語が至る所に掲げられていたという。

"ドアを開けたら必ず閉める"
"什器は決まった場所へ戻す"
"許可なく他人の物を動かすな"

などの細かい規則が、家族や使用人、訪問者全員に適用された。ルチアーニはこの"掟"を守らない者に対しては激しく怒りを露わにし、幾度となく家族や仲間とトラブルを起こした。

ルチアーニのこうした完璧主義は、彼の創造性と表裏一体の側面があった。優れた映画作品を生み出すためには、ある種の"規律"とこだわりが必要不可欠だと信じていたのである。
一方で、ルチアーニの行き過ぎた完璧主義は、しばしば彼の周囲の人々を狼狽させ、製作現場を混乱に陥れた。歴代の映画スタッフは"狂気の天才監督"と揶揄するほどだった。
家族にしてみれば、ルチアーニの過剰なこだわりは時に重荷になり、幸福な家庭生活を脅かすものでもあった。しかし、ルチアーニ自身はその点においてはいささかの譲歩も見せなかった。
映画人生の終盤には、ルチアーニの完璧主義は徐々にエゴイズムへと傾いていった面もある。しかし並外れた芸術家がそうした狂気に打ち勝つことなく、最期を遂げたという見方もできよう。

ルチアーニは生前から映画界の重鎮から熱い支持を受けていた。著名な映画監督フェデリコ・フェリーニは「ルチアーニこそが映画の詩人だ」と賛辞を惜しまず、アルフレッド・ヒッチコックも「天才的な映像作家」と呼んでいる。
アメリカの巨匠監督マーティン・スコセッシは「ルチアーニは内面の真実を最も見事に表現できた映画作家」と絶賛。『タクシードライバー』のポール・シェーレッドなど多くの監督がルチアーニから影響を受けたと公言している。
ルチアーニが映画界で最も尊敬を集めたのは、映画芸術に対する並々ならぬ情熱と、常に革新性を追求し続けた姿勢である。『最後の皇帝』でともに仕事をした門叶昴は「ルチアーニ監督は67歳で未だに若々しいエネルギーを持ち続けていた」と証言している。

ルチアーニの出自が名門貴族であったことから、かつては一部で「金持ち勝ち」と評される素地もあった。しかし戦後のイタリアでは、ルチアーニの映画が芸術性と社会性を併せ持つ作品として高く評価された。
1946年の処女作『痴呆』は、ファシズム支配下の苦難を映し出しながら、戦後の精神的復興を希求する姿勢が描かれていた。1960年代の作品群では、現代社会の病理に果敢に問題提起を続けた。こうした姿勢が、イタリア国民から称賛を受けた。
ルチアーニは晩年の1992年、イタリア芸術文化功労者としてアカデミー名誉賞を授与された。国民的英雄として永く愛された所以である。

ルチアーニの映画人生は、数々の栄誉に彩られている。カンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを3度受賞、ベネチア国際映画祭の最高賞金獅子賞に2度輝いた。そしてアカデミー賞では9度のノミネートを受け、1987年の『最後の皇帝』で作品賞、監督賞、脚色賞のトリプル受賞を果たしている。
これらの権威ある映画祭やアカデミーから、ルチアーニの芸術性と挑戦的な精神が常に高く評価されてきた。2007年の映画評論誌『サイト&サウンド』の名監督ランキングでも、ルチアーニは全389監督中第5位にランクインした。
現在もルチアーニの遺産は、後継の映画作家たちに多大な影響を与え続けている。映画史に燦然と残る「20世紀最高の巨匠」との評価が、決して過剰なものではない。